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東京地方裁判所 昭和38年(ヨ)2114号 判決 1965年10月29日

申請人

佐藤嘉光

右代理人

渋田幹雄

寺村恒郎

松本善明

石野隆春

被申請人

新田交通株式会社

右代表者

茂出木市蔵

右代理人

前田元四郎

矢野範二

倉地康孝

高橋茂

主文

本件申請を棄却する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

申請代理人は、「申請人が被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位を仮りに定める。被申請人は、昭和三七年一〇月一四日以降、申請人から被申請人に対する労働契約関係存在確認請求事件の判決確定に至るまでの間、毎月末日限り申請人に対し金四万四、七〇〇円の金員を仮りに支払え。」との裁判を求め、被申請代理人は、主文第一項と同旨の裁判を求めた。

第二  申請の理由

一  被申請人は、運転手四〇名を含む従業員約五〇名を擁してタクシー業を営む株式会社であり、申請人は、昭和三七年八月二一日に運転手として被申請会社に雇われた者であつて、午前八時から翌日午前二時まで休憩二時間を含む拘束一八時間の勤務をした後、次の日の午前八時まで一八時間は明番(あけばん)として休養する制度のもとでタクシーに乗務していた。

二  ところが、被申請会社は、昭和三七年一〇月一四日申請人に対し同日限り申請人を解雇する旨の意思表示(以下本件解雇という。)をした。

三  しかし、本件解雇は、次のいずれかの理由によつて無効である。すなわち

1  申請人は、被申請会社に雇われる以前、組合運動の経験があるため、これを知つた被申請会社が雇入れを躊躇した結果若干入社が遅れた事実があるのみならず、入社後間もない昭和三七年一〇月一日東京自動車交通労働組合(以下「東自交」という。」に個人加入し、以後被申請会社(以下、「会社」と称する。)の従業員に労働組合の必要性を訴え、殊に同年一〇月四、五日頃、明番に当る運転手らの会合である明番会で、会社が従業員のためにした野球用道具購入決定の非民主性を指摘したり、同日夜会社従業員森田、滝沢、荒井等に組合の必要性を力説し、班長である荒井や来合わせた桜井班長らと労使関係又は明番会のあり方について議論するなどひろく労働組合を結成するための準備活動を行つていたものである。ところが、会社は、申請人に対し、同人の入社にあたり同人を会社に紹介した従業員根本を通じて「組合活動はしないでくれ、もし、これ以上するなら会社をやめてもらいたい。」と申入れ、同月一二日出勤した申請人に対し営業課長をとおして出勤停止を言渡し、その後も明確な理由を示さず申請人の乗車を拒否した上本件解雇に及んだ。右解雇は、同月一二日会社の班長が申請人に対し、「会社から申請人の言動には注意していろといわれていた」と言つたことに徴しても、申請人が行つた労働組合を結成するための活動の故になされたものであるから労働組合法七条一号に違反する。

2  本件解雇は、「会社の名誉を毀損し、又は従業員の体面を傷けたとき」(会社就業規則二五条の二)、「その他前各項に準ずる程度の不都合行為のあつたとき」(同条の一四)に当該するから解雇するとの趣旨を記載した文書を交付することによつてなされたものであるが、申請人にはこれらに該当する所為は全くなく本件解雇は専ら被申請人の恣意に基いてなされたものであるから、解雇権の濫用である。

四  申請人は、本件解雇当時、一ケ月の本給金二万五〇〇〇円、歩合給を加算すると月平均賃金四万四、七〇〇円の支払を受けていたが、本件解雇によつて、賃金収入を失いその生活は著しく窮迫している。よつて、本案判決の確定までまてないので本件仮処分申請に及んだ。

第三  被申請人の答弁および反対主張

一  答弁

申請人主張の申請理由一の事実は、従業員の数を除き全部認める。

同二の事実は否認する。会社が申請人に対し、その主張の日時、同日限り申請人を解雇する旨の解雇通知書を交付したことはあるが、右通知書は申請人の申出に基いて単に形式上交付したものにすぎない。

同三の事実中、申請人主張の頃、明番会で、申請人が野球道具購入について反対の発言をしたこと、その夜、会社従業員森田、滝沢、荒井と申請人が会合したこと、同日申請人と桜井班長とが短時間話合つたこと、昭和三七年一〇月一二日以後、被申請人が申請人の乗車を拒んだこと、申請人主張の文書(前記解雇通知書)にその主張のような会社就業規則二五条該当の事由を記載したことは何れも認めるが、申請人が昭和三七年一〇月一日東自交に個人加入したことは争う。申請人が会社の従業員に労働組合の必要性を訴え、組合結成の準備活動をしたことは不知、その余の事実は否認する。

同四の事実中、申請人がその主張の当時、その主張どおりの賃金を支払われていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

二  反対主張

1  申請人は、試傭期間二ケ月、右期間は実地詮衡期間として何時採用内定を取消されても異議なき約で会社に雇傭されたものである。

従つて、会社は試傭中の者にも本採用の者に対すると同様の給与を支給する慣例により同年九月分以降申請人に本採用者と同様の計算方法で算定した賃金を支払つていたとはいえ、申請人は、本採用の者と異り、試傭期間中何時でも解雇され得べき地位にあつたのである。

2  申請人が昭和三七年八月中旬、会社に対し雇われたい旨申入れをしてきたのに対し、会社は同年同月二一日に至りようやくこれを雇入れたが、それは当時東京乗用旅客自動車協会所属全業者間に結ばれていた運転者引抜き防止協定に従い、申請人の前勤務先である北光自動車株式会社に申請人が円満退職者かどうか確めた上、同人を雇入れたからであつて、申請人主張のような理由で雇入れがおくれたわけではなく、雇入れの日を二一日としたのは、毎月二〇日が賃金締切日であるので申請人の同意を得て賃金計算の便を計つたまでである。

3  会社の申請人に対する解雇通知書の交付は、本来申請人の申出に基き採用内定取消の意思を表示したにほかならないのであつて、これにより申請人と会社との間に合意による解約が成立したものである。仮りに本採用されたとしても、申請人は昭和三七年一〇月一四日みずから申出て任意退職をしたものであり、そうでないとしても、会社は同日申請人を解雇したものである。右解雇にあたつては、昭和三七年一〇月分賃金として、昭和三七年九月二〇日以降同年一〇月一四日までの分を上廻る金四万二、六〇〇円を支払い、ただちに三〇日分の予告手当を申請人の自宅において申請人の妻に手交しようとしたが、申請人が帰郷不在であるという理由で受取らなかつた。そこで内容証明郵便で平均賃金三〇日分四万七、一〇〇円を予告手当として支払う旨申請人に通知したが、これにも返答がないのでその頃右金額を弁済供託した。なお、解雇の事由は、申請人が試傭期間中従業員らに対し「会社の部長、係長等をガタクツテやる。」と繰かえし暴言を吐く等上司同僚を侮辱し、従業員の体面を傷けるような言動が多く、また会社が乗務員約二〇名から野球部結成のため購入を熱望されて野球道具を購入し、その旨申請人主張の明番会において発表したところ、申請人はことさら、右野球道具購入について非難する発言をして同僚の不信嫌悪を買うなど著しく協調性を欠き、遂に申請人入社の際の身元保証人から身元保証取消の申出がある等のことがあつて、従業員として不適格と認められたことによるものである。

会社は申請人に右のように従業員として不適格を認むべき行為があつたので、本件解雇に及んだものであるから、本件解雇が労働組合法七条一号に違反し、あるいは解雇権の濫用となるいわれはない。

4  申請人は、昭和三七年一一月六日から同年一二月二〇日までは旭東自動車株式会社に、その後は山武自動車株式会社にいずれも運転手として勤務し、賃金を得ているものであつて仮処分の必要性はない。

第四  申請人の右反対主張に対する答弁

被申請人の反対主張1の事実は否認する。同3の事実中会社が申請人に対し金四万七、一〇〇円を弁済供託した事実は認めるが、合意解約ないし任意退職の事実、会社が申請人の妻に予告手当を手交しようとしたことおよび申請人に被申請人が不適格事由として列挙するような各行為があつたことは何れも否認し、同4の事実は争う。

第五  疎明方法<省略>

理由

一、本件労働契約関係の発生

被申請人がタクシー業を営む株式会社であり、申請人が昭和三七年八月二一日に運転手として会社に雇われ、午前八時から翌日午前二時まで休憩二時間を含む拘束一八時間の勤務をした後次の日午前八時までの一八時間は明番(あけばん)として休養する制度のもとでタクシーに乗務していたことは当事者に争がなく、被申請人代表者茂出木市蔵本人尋問の結果によつて成立を認める疎乙第二四号証によれば、被申請会社従業員数は昭和三六年一二月当時約五〇名であつた事実を一応認めることができる。そして<証拠>を総合すれば、被申請会社就業規則(昭和三六年一一月一日実施)には、新規採用の従業員は、原則として従業員見習とし、二ケ月の試傭期間を設ける旨の定め(六条)があり、申請人もこれに従い従業員見習として雇入れられたものであつて、雇入れ当時申請外前島照久を連帯保証人として被申請会社に対し、「試用期間中を実地詮衡期間として了承致し、試傭中何時採用内定を取消されても異存ありません。」という誓約書を差入れていること、申請人は同年九月分以降給与としては歩合給のみではなく、本給、深夜手当等をも支給されていたが、これは当時会社においては試傭された者も本採用された者も給与の上で差別していなかつたことに基くものであること、前記就業規則には、会社が従業員採用にあたつて第一次に書類選考および面接試験、第二次に身体検査および適性検査を行う旨の規定(五条)はあるが、試傭期間終了前会社において特に積極的な処分(たとえば試験、適性検査など)ないし認定行為をなすべき旨の規定はなく、また、試傭者を本採用にする場合に辞令またはこれに類する書類を会社から交付することは事実上行われていなかつたことが、それぞれ疎明される。申請人佐藤嘉光の第一回供述疎甲第九号証(陳述書)の記載および証人荒実の供述の中以上と相容れない部分はいずれも信用することができず、他に右疎明を覆えすに足る資料はない。

以上の事実から推せば、会社が二箇月の試傭期間を就業規則に定めた趣旨は、その期間中に新規に雇入れた者につき従業員としての適性を審査した上、適格者だけを本採用しようとする目的にいでたものであり、従つて、若し試傭期間中不適格と判断される者があるときは、その判断が不合理なものでない限り会社は本採用者の解雇に適用される就業規則の定め(就業規則一一、一二、二五、二六条等参照)、如何に拘らず、これを有効に解雇できるものと解するのが相当であつて、申請人もこれを容認して会社との間に期間の定めなき雇傭契約を結んだものと認めるのが相当である。

二、本件解雇とその効力

次に、被申請会社が昭和三七年一〇月一四日申請人に対し同日限り申請人を解雇するという解雇通知書を交付したことは当事者間に争がない。而して、申請人は、右通知書の交付は被申請人が一方的解雇の意思表示としてなされたものであると主張するのに対し、被申請人は、右通知書の交付は申請人の合意解約申入れを承諾したものにほかならないと抗争するので、この点を考えるに、<証拠>を総合すれば、右解雇通知書は申請人の「解雇するなら解雇通知書を交付せよ」という求めに応じて交付されたものではあるが、申請人の合意解約申入れに対する承諾の意思表示として交付されたものではなく、申請人を解雇する会社の一方的意思表示として行われたものであることを一応認めることができ、これを覆えすに足りる疎明はない。

そこで、進んで、会社が昭和三七年一〇月一四日申請人に対してした右解雇の意思表示の効力について判断する。

1  <証拠>を総合すれば申請人が昭和三七年一〇月一日被申請会社従業員のうち唯一人卒先して全国自動車労働組合所属東京自動車交通労働組合に加入し、北板橋支部日本タクシー分会に所属するに至つた事実を一応認めることはできるが、このことを会社が本件解雇当時までに知つていたことについては疎明がない。また、前顕証人荒実、近江昭(第二回)の各証言によれば、会社が申請人を採用する以前から会社の営業部長であつた近江昭が申請人の北光自動車株式会社勤務中労働組合に加入していたことを知つていた事実を一応認めることはできるが、同人の雇入れがそのために特におくれた事実を疎明するに足りず、かえつて、証人前島照久、近江昭(いずれも第一回)の証言によれば、近江営業部長が申請人を面接してから前島を通じて採用内定を申請人に通知するまでに要した期間が約一週間である事実、その間会社は、昭和三七年三月一日になされた同業者間の協定に従い、申請人の前使用者に照会して円満退職の回答を得た上、申請人から前島照久を通じてなされた要望に従い採用通知の日付を同月二一日とした事実をそれぞれ一応認めることができ、これらの事実を考えあわせてみると、申請人がさきの勤務先で組合運動をしていたという理由で会社の雇入れが遅れたという事実は結局疎明がないといわなければならない。

2  次に、昭和三七年一〇月四、五日頃のいわゆる明番会で申請人が会社の行つた従業員用野球道具購入について反対の発言をしたこと、その夜会社従業員森田、滝沢、荒井および申請人が会合したこと、同日申請人と桜井班長が話したことは何れも当事者間に争のないところであつて、証人荒実、森田祐吉の各証言および申請人佐藤嘉光本人(第一回)の供述によれば、申請人は会社に運転手として雇入れられた後、同僚の前島照久、根本二郎その他の運転手に労働組合を結成しようと呼びかけたことがあり、前記明番会のあつた夜の会合においても申請人は前記荒井、森田、滝沢らに対し「不平不満があつても会社から一方的に押しつけられないように労働組合を作つて対抗すべきではないか。」と話した事実を一応認めることができるが、前記桜井班長と労使関係、明番会のあり方につき議論したことは疎明する資料がない。<中略>

3  他方、<証拠>によれば、申請人は、会社に雇い入れられた後同僚の小林某に対し「会社の部長、係長、班長らは大したことはない。ガタクツてやる。」と放言し、前記前島照久が申請人に対し右の事実を確め、自重を忠告したのに対して、「言論は自由だ。親兄弟が意見したつてむだだ。」と答え、その後も同人に対し、「会社の部長、班長なんかは大したことはない。ガタクツてやる。」と前同様の放言をするなど粗暴な言辞を繰返し、また、会社の従業員中二十数名の希望に基いて会社が購入した野球道具に関し、従業員の希望を聴かないでリクリエーシヨンを押付けたものと臆断して前記の如く反対し、「野球は嫌いな者もあるし、ユニホームなどは身体に合せて作らなければならないのに会社のやりかたは民主的ではない。」旨非難したため、野球道具の購入を希望していた被申請会社従業員多数の反感を買い、これらの者との関係が円満を欠くに至つたことおよびこのような諸事情から、申請人の身元保証人となつていた前島照久は申請人を会社に紹介した根本二郎と連署して昭和三七年一〇月一一日身元保証を断る旨記載した保証人取消申請書と題する書面を会社に提出したこと、等を一応認めることができる。申請人佐藤嘉光本人の第一回供述およびこれによつて成立を認める疎甲第九号証、証人森田祐吉の証言中それぞれ以上の認定に反する部分は採用しない。

4  更に、申請人は会社が昭和三七年一〇月一二日出勤した申請人に対し営業課長をとおして出勤停止を言渡し、その後も明確な理由を示さないで申請人の乗車を拒否したと主張する。しかし、右主張事実のうち会社が同月一二日以降申請人を乗車させなかつたことは当事者間に争のない事実であるけれども、その余の事実については疎明がなく、かえつて<証拠>を総合すれば、会社は昭和三七年一〇月一二日会社営業係長土屋忠雄を通じて申請人に対し、前島照久が前記のとおり申請人の身元保証を取消す旨申出て来たことを伝えると共に前島、根本らとの協議、和解をすすめ、和解のできるまで乗車させないが、乗車した場合の推定稼働額すなわち一日一万円の稼働があつたものとして平均賃金を保証するから十分協議をつくすように要望したのに対し、申請人において、「二、三日考えさせてほしい」と返事を留保したまま、前島、根本らと協議をせず、遂に会社に対し解雇通知を求めるに至つたのが真相であることをうかがうに足りる。

5  最後に申請人は、昭和三七年一〇月一二日会社の班長が申請人に対し「会社から申請人の言動には注意していろといわれていた。」と言つた旨主張し、前記疎甲第九号証の記載および申請人佐藤嘉光本人の第一回供述中には右主張にそう部分があるがこれを証人土屋忠雄の証言に照すと、右発言は当時篠崎班長によつてなされたものであり、且つその「言動」とは、申請人の組合ないし組合結成活動を指すものではなくて申請人の前記明番会における言動或は前記前島照久に代る保証人を立てることを会社に促された際土屋係長に対し試採用者でも一四日以上勤続すれば予告手当を請求する権利があること位知らないのか、よく勉強しろ。」と非難したような、協調性を欠く不穏当な言動を指すものであつたとみるのが自然であつて、他に会社が申請人の組合ないし組合結成活動を嫌忌して何人かにその監視を命じたことを認めるに足る疎明はない。

6  そして、会社が申請人に交付した前記解雇通知書には会社就業規則所定の「会社の名誉を毀損し、又は従業員の体面を傷つけたとき」(二五条の二)「その他前項に準ずる程度の不都合行為のあつたとき」(同条の一四)に該当することを理由に解雇する旨の記載があつたことは当事者間に争いない。

以上1ないし6の事実関係からすれば、本件解雇は、申請人主張のような労働組合結成準備など労働組合活動の故になされたものと解すべきではなく、申請人が、試傭期間中、前記3のように粗暴な放言をしたり、軽卒な発言により同僚多数の反感を買う等非協調性を明らかに示す行為があつたため、会社は申請人を従業員として不適当と判断し、本件解雇に及んだものと認めるのが相当であり、しかも、前に認定した会社の業種、従業員数等を参酌すれば、会社の右判断は必ずしも不合理とはいい難い。それ故、本件解雇は不当労働行為に該当せず、また、試傭期間中の解雇として何ら解雇権のらん用とは認め難いから本件解雇を無効であるという申請人の主張は遂にこれを採用することができない。

三、もつとも、成立に争のない疎乙第六号証、第七号証の一、二によれば、被申請人は昭和三七年一一月初旬に至りはじめて申請人に対し労働基準法二〇条に基く解雇予告手当として金四万七、一〇〇円の支払を準備して受領を催告した上、受領を拒まれたので同月一三日東京法務局に右予告手当を弁済供託したことが一応認められる(解雇当時の申請人の三〇日分の平均賃金が四万四七〇〇円にすぎないことは当事者間に争がない)から前記解雇は右供託によりはじめてその効力を生じ、申請人と被申請人との間の労働契約関係は同日限り終了したものというべきである。

四、以上の次第であるから、本件仮処分申請のうち、昭和三七年一一月一四日以降もなお本件労働契約関係が依然存続することを前提とする部分は、すべてその前提において既に失当でありまた、その余の部分、すなわち昭和三七年一〇月一四日以降前記労働契約関係終了の日である同年一一月一三日までの賃金仮払を求める部分も、その期間金額の僅少であることおよび証人近江昭の第二回証言により申請人は被申請会社のタクシー乗務をやめてから極東タクシー、山武タクシー等タクシー業者のタクシーに乗務していた事実がうかがわれること等を参酌すると、右仮払の申請を容れなければ申請人の生活が著しい窮迫におちいるものとは思われず、結局仮処分の必要性につき疎明が十分でないといわざるを得ない。

五、よつて本件申請をすべて棄却することとし、申請費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。(川添利起 園部秀信 西村四郎)

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